「マーガリンって何からできてるの?」
「身体に悪いという話も聞くけど、あれは本当? ウソ?」
そんな不安を抱いてはいませんか?
結論から言えば、マーガリンの主な原料は植物性油脂ですので、原料自体は安全です。
ただ、製造工程で「トランス脂肪酸」という心臓病リスクのある物質が発生してしまうため、「身体に悪い」と言われたのです。
ですが、現在ではトランス脂肪酸を極力抑える製法のマーガリンも作られるようになり、健康リスクについての対策が進んでいます。
そんな現状を踏まえてこの記事では、
◎マーガリンに使われる植物性油脂の種類とは
◎マーガリンの製造工程
について、詳しく解説していきます。
もちろん、
◎「マーガリンが身体に悪い」という説についての真実とは?
◎トランス脂肪酸の健康リスク
についても説明します。
この記事を読めば、あなたがマーガリンを使うか使わないか、自分で判断することができるようになるでしょう。
目次
1 マーガリンの原料は植物性油脂
結論からいえば、マーガリンの主な原料は「植物性油脂」です。
農林水産省が定める日本農林規格(JAS)では、「マーガリン」について以下のように定めています。
食用油脂(乳脂肪を含まないもの又は乳脂肪を主原料としないものに限る。以下同じ。)に水等を加えて乳化した後、急冷練り合わせをし、又は急冷練り合わせをしないでつくられた可塑性のもの又は流動状のものであって、油脂含有率(食用油脂の製品に占める重量の割合をいう。以下同じ。)が80%以上のものをいう。
バターの原料は「動物性油脂=牛乳など」ですから、「マーガリンは植物性、バターは動物性」と覚えておくといいでしょう。
ただ、植物性油脂といっても、菜種油やオリーブオイル、ごま油などさまざまな種類があります。
この章では、どんな油がマーガリンの原料として使われているのか、どのように作られるのかなど、マーガリンの原料についてくわしく解説していきましょう。
1-1 マーガリンに使われる主な植物性油脂の種類
マーガリンに使われる主な植物性油脂には、以下のようなものがあります。
◎大豆油
◎なたね油
◎コーン油
◎パーム油
◎ヤシ油
◎綿実油
◎ひまわり油
◎紅花油
◎オリーブ油 など
最近では、商品名に「コーン」「べに花」「EXバージンオリーブ」など、主として使用している油の種類が含まれているマーガリンも多くあって、「何油が原料か」がわかりやすくなってきました。
使われている油によって、風味や味わいなども違ってきますので、好みで使い分けることもできます。
1-2 マーガリンとファットスプレッドの違い
実は、農林水産省が定める「マーガリン類」には、「マーガリン」と「ファットスプレッド」の2種が含まれます。
この2種には、主に以下のような違いがあります。
マーガリン | ファットスプレッド | |
油脂含有率 | 80%以上 | 80%未満 |
食品添加物以外の原材料 (次に掲げるもの以外のものを使用していないこと) | 1)食用油脂 2)乳及び乳製品 3)食塩 4)カゼイン及び植物性たん白 5)砂糖類 6)香辛料 | 1)食用油脂 2)乳及び乳製品 3)砂糖類 4)糖アルコール:還元水あめ、還元麦芽糖水あめ及び粉末還元麦芽糖水あめ 5)蜂蜜 6)風味原料 7)調味料:食塩及び食酢 8)カゼイン及び植物性たん白 9)ゼラチン 10)でん粉及びデキストリン |
※ 農林水産省「マーガリン類の日本農林規格」より抜粋
簡単にいえば、
①油脂が80%以上であればマーガリン、80%未満ならファットスプレッド
②ファットスプレッドには、はちみつや風味原料などを使用することができる
ということです。
②が可能なファットスプレッドには、マーガリンにはないチョコレート風味やフルーツ風味の商品もあるのも特徴です。
が、一般的にはどちらもあわせて「マーガリン」と呼ばれることも多いようです。
1-3 マーガリンの製造工程
マーガリンは、製品の80%以上が植物性油脂ですが、もちろんそれ以外に食塩などの原材料も使用しています。
では、どんな原材料をどのように使って作られているのでしょうか。
その製造工程を簡単にまとめると、以下のようになります。
【マーガリンの製造工程】
1)原料を配合する
原料となる油脂(だいたい3〜4種類)と、着色料、乳化剤を配合タンクの中で配合します。
2)水相を作る
マーガリンに味をつけるため、水に食塩や粉乳などを溶かした「水相」というものを作ります。
3)乳化する
1)の油脂と2)の水相を乳化タンクで混ぜ、油と水が分離しないように乳化させます。
4)殺菌、急冷する
3)を殺菌処理し、急速に冷やし固めて練り合わせます。
5)充填、包装する
容器に4)を充填し、包装すれば出来上がりです。
つまりマーガリンは、植物性油脂と味付け用の水分とを混ぜて乳化させ、冷やし固めて作られている、というわけです。
2 「マーガリンは身体に悪い」という噂の真実とは?
マーガリンの原料について、「プラスチックでできている」「工業用の油を使用している」といった話を聞いたことがありませんか?
その話の真偽を確かめたくて、この記事にたどり着いた人も多いことでしょう。
実際に、「マーガリンは身体に悪い、危険な食品だ」という説はあり、賛否両論あるのが現状です。
この章では、その問題について掘り下げていきたいと思います。
2-1 なぜ敬遠されるのか?
そもそもマーガリンはなぜ、「身体に悪い」と言われるのでしょうか?
その原因はいくつかありますので、ひとつずつ説明していきましょう。
2-1-1 トランス脂肪酸
マーガリンのネガティブ要素としてもっとも多く挙げられるのが、「トランス脂肪酸」を含む食品であるという点です。
トランス脂肪酸とは「不飽和脂肪酸」の一種で、日常的に摂取しすぎると、心臓病のリスクが高まるという研究結果があります。
マーガリンには、従来の製造過程でこのトランス脂肪酸が発生するため、危険視されるようになったのです。
具体的に説明していきましょう。
マーガリンは植物性油脂を原料としていますが、植物性油脂は常温では液体状をしていて固まりません。
パンに塗りやすくするためには、固形化して硬さを調節する必要があります。
そこで、油に水素を添加することで物性を変え、固形化または半固形化させた「部分水素添加油脂」というものを作るのです。
これをマーガリンの主原料となる植物油脂に加えることで、常温でも溶けすぎず硬くなりすぎないあの絶妙な柔らかさを実現しているわけです。
が、問題はこの「部分水素添加油脂」で、油に水素を添加する過程で、トランス脂肪酸が発生してしまうのです。
つまり、
▼マーガリンの硬さ調節のため、液状の油に水素を添加して「部分水素添加油脂」を作る
↓
▼その過程で、心臓病のリスクが疑われている「トランス脂肪酸」が発生する
↓
▼マーガリンに「トランス脂肪酸」が含まれる
↓
▼「マーガリンは危険!」と言われるようになる
というわけです。
※ちなみに、この水素を添加して硬さを調節する過程を「可塑化 (Plasticating)」と表現したため、「Plasticate→プラスチック」という連想から「マーガリンはプラスチック」という誤解が生じたという説もありますが、この説の真偽は不明です。
ただ、最近ではこの部分水素添加油脂を使用せずに、トランス脂肪酸を抑えたマーガリンも作られるようになりました。
パッケージに「部分水素添加油脂不使用」や「トランス脂肪酸低減」といった表示がされていますので、購入する際には確認してみるといいでしょう。
また、そもそも日本人の食生活であれば、マーガリンに含まれる程度のトランス脂肪酸なら問題視しなくてもよい、という意見もあります。
これについては、「2-2 マーガリンは本当に体に悪いのか?」で詳しく触れますので、気になる人は今すぐそちらも読んでみてください。
2-1-2 遺伝子組み換え原料
2016年、遺伝子組み換え技術で作られた添加物が使用された植物性油脂が輸入され、厚生労働省の定める安全性審査を受けないまま、マーガリンやドレッシングなどに加工されたという出来事がありました。
遺伝子組み換えは、作物を害虫や除草剤に対して強くしたり、過酷な環境でも育つようにするなど、品種改良のために行われるものです。
が、一方では、「アレルギーの原因になるのではないか」「在来植物などの環境を乱すのではないか」といったリスクも懸念されています。
そのため、「マーガリンには遺伝子組み換え原料が使われているのではないか」と警戒する人がいるというわけです。
基本的には、遺伝子組み換え作物やそれを使用した加工品には安全性審査が行われ、安全が確認されたものだけが製造、輸入、販売される仕組みになっています。
また、遺伝子組み換えであることの表示も法的に義務付けられています。
最近ではマーガリンのパッケージにも、「遺伝子組み換え原料不使用」と明記されているものもありますので、心配な人は確認するとよいでしょう。
※参考 厚生労働省「食品衛生法に基づく安全性審査を経ていなかった遺伝子組換え微生物を利用した添加物についての対応」
2-2 マーガリンは本当に身体に悪いのか?
結局のところ、「マーガリンは身体に悪い」「危険性の高い食品だ」という意見は正しいのでしょうか?
これは、「賛否両論、諸説ある」としか言えません。
「身体に悪い」という人は、前述したように、
1)トランス脂肪酸が含まれる
2)遺伝子組み換え原料が使われている恐れがある
などの点を危険視しています。
特に1)のトランス脂肪酸については、海外では日本よりも厳しく規制されているため、懸念が強いようです。
具体的に挙げると、
◾️世界保健機関(WHO):トランス脂肪酸の摂取量を総摂取エネルギーの1%未満に抑えることを目標値として設定
◾️アメリカ:トランス脂肪酸が多く含まれる「部分水素添加油脂」を食品に使用するためには、「米国食品医薬品局(FDA)」の承認が必要(2018年より)
◾️EU:食品に含まれるトランス脂肪酸の濃度に上限を設定
◾️中国:食品にトランス脂肪酸濃度の表示を義務付け
などです。
もっと詳しく世界のトランス脂肪酸の規制状況を知りたい方は、こちらの記事『世界各国・日本のマーガリン禁止の現状と日本で食べても大丈夫な理由』も是非読んでみてくださいね。
一方日本では、表示の義務や濃度の制限はないのが現状です。
そのかわりに、食品メーカー側が自主的に対策をしていて、
◎トランス脂肪酸が発生する「部分水素添加油脂」を使わない
◎「遺伝子組み換え原料」を使用しない
というマーガリンを発売するようになっています。
さらに、「そもそもマーガリンに含まれるトランス脂肪酸自体を問題視しなくてもいい」という意見もあります。
例えば食品安全委員会では、アメリカで2018年から部分水素添加油脂の使用にFDAの承認が必要となったことを受けて、以下のように発表しています。
「米国の規制は、トランス脂肪酸の削減を目的としています。しかし、日本と米国では脂肪やトランス脂肪酸の摂取量が異なることに留意する必要があります。」
「<トランス脂肪酸の平均摂取量(エネルギー比)※>
○アメリカ:2.2% ○日本:0.3%
※食品安全委員会「食品中に含まれるトランス脂肪酸」評価書より」「WHOでは、心血管系疾患のリスクを低減し、健康を増進するための目標として、トランス脂肪酸の摂取を総エネルギー比1%未満に抑えるよう提示しています。」
「大多数の日本国民のトランス脂肪酸の摂取量は、WHOの目標を下回っています。脂質に偏った食事をしている人は、留意する必要がありますが、通常の食生活では、健康への影響は小さいと考えられます。」
「近年は、食生活の変化により脂質の摂取過剰が懸念されており、トランス脂肪酸だけを必要以上に心配せず、脂質全体の摂取量に十分配慮し、バランスの良い食事を心がけることが大切です。」
つまり、日本人の場合はマーガリンも含めたトランス脂肪酸の総摂取量が少ないので、脂質を摂りすぎなければ欧米のようには心配する必要はない、という主張です。
また、農林水産省では以下のように説明しています。
「トランス脂肪酸による健康への悪影響を示す研究の多くは、脂質をとる量が多く、その結果としてトランス脂肪酸をとる量が多い欧米人を対象としたものであり、脂質をとる量が少ない日本人の場合にも同じ影響があるのかどうかは明らかではありません。」
「油脂の加工・精製でできるトランス脂肪酸と天然にあるトランス脂肪酸では、健康に及ぼす影響に違いがあるのか、また、たくさんの種類があるトランス脂肪酸の中で、どのトランス脂肪酸が健康に悪影響を及ぼすのかについては、十分な科学的情報がありません。」
「健やかな食生活を送るためには、トランス脂肪酸という食品中の一成分だけに着目するのではなく、現状において日本人がとりすぎの傾向にあり、生活習慣病のリスクを高めることが指摘されている脂質そのものや塩分を控えることを優先すべきと考えています。」
こちらは、トランス脂肪酸についてはまだわかっていないことが多いようですが、やはり日本人の摂取量が少ないので、それよりも摂取量が多く健康リスクがはっきりわかっている脂質や塩分を控えた方がよい、という意見です。
これらの両論を踏まえて、「マーガリンが危険か安全か」についてあえて結論をまとめるなら、
◎トランス脂肪酸については、欧米では危険性が指摘されているが、日本人への影響などまだ研究やデータが十分ではない。
ただ、日本人の摂取量がWHO基準や欧米基準よりも少ないことはわかっている。
◎遺伝子組み換え原料については、安全性審査と表示義務が定められているので、それが守られている限りは問題ない。
気になる人は、表示をチェックして避けることができる。
◎もし「マーガリンを使うのは心配、でもバターも使いたくない」という場合は、
「部分水素添加油脂不使用」
「遺伝子組み換え原料不使用」
と明記されているマーガリンを選ぶことができる。
というところが現状でしょう。
「少ないから大丈夫」と受け止めるか、「少しでも不安」と考えるかの違いと言えそうです。
3 まとめ
マーガリンの原料と安全性について、よく理解してもらえたかと思います。
では最後にもう一度記事の内容をまとめましょう。
◾️マーガリンの主な原料は植物性油脂
→ただし、製造工程で心臓病リスクのあるトランス脂肪酸が発生する
→現在ではトランス脂肪酸を発生させる「部分水素添加油脂」を使用しないマーガリンもある
これを踏まえて、あなたがマーガリンを使うか使わないか、納得する判断ができるよう願っています。
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