安くておいしくて塗りやすい。
「朝ごはんはトースト派」の中には、冷蔵庫に無意識に鎮座させている方も多いであろうマーガリン。
近ごろ健康に悪い食品として話題になっていますよね。
どこかで「マーガリンは危険だからバターに変えるべき!」といった話を耳にして、不安になった方も多いのでは。
結論、「毎朝ひとかけらのマーガリンをパンに塗って食べる程度」で、健康に害を及ぼすとは言えないでしょう。
ですが、マーガリンはパンに塗る以外にも様々な加工食品に使用されており、中には危険なものが流通しているのも事実です。
この記事では、
- 家庭用のマーガリンは安全性が高いと言える根拠
- 主要なマーガリン製品の実名・原材料公開
- マーガリンが「危険」と言われる噂はデマ
- 気をつけるべきマーガリン
- マーガリンを安心して食べるためのポイント
について、信頼性の高いエビデンスを元に、家庭用マーガリンが危険食品ではないという事実をしっかり解説していきます!
これを読めば、家庭で使うマーガリンが危険ではないことがわかるのはもちろん、気をつけるべき点もしっかりと理解できるはず。
目次
1 家庭用マーガリンは危険ではない
毎朝のトーストにバターやジャムではなくマーガリンを塗ることは、不健康な選択なのでしょうか?
実際は、朝食に登場するくらいの量であれば心配しなくても良いと言えると思います。
その理由は、
- 「トランス脂肪酸」が家庭用マーガリンから削減されてきていること
- 日本人はトランス脂肪酸の摂取量が少ないこと
が挙げられます。
1-1 【主要メーカー25製品】毎日食べても安心の家庭用マーガリン
マーガリンが危険と言われる最も大きな要因は、マーガリンに含まれる「トランス脂肪酸」です。
このトランス脂肪酸、聞いたことがある方も多いと思いますが、心疾患や生活習慣病のリスクを上げるとして、世界的に削減しようという風潮になっています。
この流れを受け、メーカーはこぞってマーガリンのトランス脂肪酸低減化に取り組みました。
その結果、スーパーで見かけるマーガリンのほとんどは「トランス脂肪酸低減マーガリン」となり、毎日食べても問題ないように設定されています。
以下、「主要メーカーのトランス脂肪酸低減マーガリン」をまとめました。
参考
※1 食当り食パン1枚として算出しています。食パン1枚に塗る量はおよそ10gとしています。
※ 雪印メグミルク『トランス脂肪酸Q&A』
※ 明治乳業『明治のトランス脂肪酸量低減の取組み』
※ Jオイルミルズ『トランス脂肪酸の当社取組み』
※ 小岩井乳業
※ 帝国ホテルキッチン『トランス脂肪酸低減の取組み』
トランス脂肪酸の含有量は10gあたり多くても0.2g以下ですが、トランス脂肪酸の1日の摂取量基準で見ると、非常に少ない量といえます。
【トランス脂肪酸の1日の摂取量目安】
WHOの基準:「1日の総エネルギー比の1%未満」※2
=日本人の平均摂取カロリー1900kcalの場合、脂質として2g未満
※少なければ少ないほど良いですが、トランス脂肪酸は肉や乳製品、植物油など自然の食品にも含まれるため、ゼロにするのは難しい。
つまり、マーガリンを毎日パンのお供に使ったとしても、トランス脂肪酸の過剰摂取にはつながらない、と言えますね。
もちろん、ファストフードや高カロリーな菓子パンやスイーツを頻繁に食べているような食生活でなければ、の話ですが・・・。
参考
※2 農林水産省『トランス脂肪酸に関する国際機関の取組』
1-2 日本人はトランス脂肪酸の摂取量がとっても少ない!
さらに、意識したいのは量の問題。
マーガリンを過度に心配しなくてよい理由として、平均的にみると、私たち日本人はトランス脂肪酸の摂取量が欧米人に比べて非常に少ないという事実があります。
そもそもトランス脂肪酸の規制が始まった理由として、脂質を摂る量が多い欧米人で心臓血管病による死亡率の増加が問題になっていたという背景があります。
食品安全委員会の評価書(2012)※3によると、日本人のトランス脂肪酸摂取量の平均は総エネルギーの0.3%(約0.67g)。
これはWHOの目標(総摂取エネルギーの1%未満)を大きく下回っています。
さらに、摂取が多い方から上位5%の人でもWHOの目標を十分に下回っていることから、特に日本国内では今のところは対策の必要がないという方針になっています。※4
食生活が異なる日本人では、そもそもトランス脂肪酸自体が問題になる話ではなかった…とも言えますね。
したがって、マーガリンを毎朝パンに塗って食べたところで、健康への影響は非常に小さいと考えられます。
参考
※3 食品安全委員会『新開発食品評価書食品に含まれるトランス脂肪酸』より
※4 食品安全員会『食品に含まれるトランス脂肪酸』評価書に関するQ&A
女性はトランス脂肪酸の摂取量が多い!?
日本人全体の平均値でみると問題はなくても、年代や性別で分解してみると30~40代の子育て世代の女性はトランス脂肪酸の摂取量が多い傾向もみられます。
30歳以上の成人225人を調査した研究報告によると「男性の 5.7%、女性の 24.4%がエネルギー比 1%を超えていた」という結果が出ています※5
また、ケーキやクッキーなどの焼き菓子、バターなどの飽和脂肪酸の摂取が増えると、トランス脂肪酸の量も増えるという調査結果もあります。※6
家でパンにマーガリンを塗って食べること自体は危険ではなくとも、塵も積もれば・・・ですよね。
女性では特にスイーツや菓子パンが好きな方は多いと思いますが、マーガリンだけではなく食生活全体に目を向けることが必要かもしれません。
参考
※5 Yamada M, Sasaki S, Murakami K, Takahashi Y, Okubo H, Hirota N, et al.: Estimation of trans fatty acid intake in Japanese adults using 16-day diet 144 records based on a food composition database developed for the Japanese population. J Epidemiol 2010; 20(2): 119-127
※6 Kawabata T, Shigemitsu S, Adachi N, Hagiwara C, Miyagi S, Shinjo S, et al.: Intake of trans fatty acid in Japanese university students. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo) 2010; 56(3): 164-170
2 バターやジャムに置き換えれば安全というわけではない
では、マーガリンよりもナチュラルなイメージのあるバターやジャムに替えれば、より健康的でしょうか?
答えは「NO」。
「自然の食べ物だから」という理由だけで安易にジャムやバターに置き換えるのはオススメできません。
それぞれデメリットがあり、生活習慣病リスクを上げてしまうかもしれないからです。
2-1 バターにも別の「減らすべきアブラ」が含まれる
バターには動物性脂肪に多く含まれる「飽和脂肪酸」がマーガリンの2倍以上含まれます。
飽和脂肪酸も摂り過ぎることで生活習慣病など病気の発生リスクを上げるという研究結果が多数存在し、トランス脂肪酸と同様、「減らすべき脂質」であることは間違いありません。
実は、昨今日本人はこの「飽和脂肪酸」の摂取量がボーダーラインを超えてきており、摂る量に気をつけたい脂質と言われています。
厚労省の「日本人の食事摂取基準(2015版)」によれば、目標量は1日の総カロリー摂取量の7%以下と定められています。※7
しかし2010、11年の国民健康・栄養調査の結果では、30~40代の値で男性は6.6%、女性は7.6%。
女性では目標量を上回ってしまっています。
つまり、平均的な摂取量の状況からみると、控えた方がいいのはマーガリンよりバター。
「マーガリンが危なそうだから」と漠然とした理由でバターにスイッチする前に、食生活全体を見直すほうが健康への近道です。
参考
※7 厚生労働省『日本人の食事摂取基準(2015版)1─3 脂質 2─3.飽和脂肪酸
2-2 ジャムに含まれる砂糖は「いらない栄養素」
ではフルーツのジャムはどうでしょうか?
市販のジャムのほとんどは砂糖がたっぷり含まれます。
ハーバードメディカルスクールのレポートでも、砂糖の摂り過ぎは心疾患による死亡率を38%上昇させるという研究結果を掲載しており、「砂糖は必要のない栄養素」としています。※8
フルーツが原料なのでマーガリンよりもヘルシーなイメージがありますが、マーガリンの代用として食生活にわざわざ砂糖を加えることがヘルシーとは言えません。
マーガリンと同様、使うのであれば少量にとどめておいたほうが安心です。
参考
※8 Harvard Health Publishing “The sweet danger of sugar” (閲覧:2020/2/12)
3 マーガリンは危険食品!という噂はデマだった
続いて、マーガリンが危険な食品である理由としてよく耳にする、
① マーガリンはアメリカで禁止食品になった
② マーガリンは食べるプラスチックだ
の2つの噂が、実はデマだった・・・というお話です。
3-1 「マーガリンがアメリカで規制された」は間違い
「アメリカでマーガリンが禁止食品になった!」という情報があるようですが、これは間違い。
米FDA(アメリカ食品医薬品庁)が禁止したのは、「部分水素添加油脂」と呼ばれる油脂です。※9
部分水素添加油脂とは、植物油など液体の油に水素を添加することで、軟らかさや融点などの油の性質を調節した油脂のことで、トランス脂肪酸の主な摂取源と言われています。
マーガリンのように扱いやすくなめらかな食感を出したり、菓子類に添加して口溶けや歯ごたえなどを改良したりなどの用途で使用されます。
この「部分水素添加油脂」が使われる代表食品がマーガリンであったため、このような誤解がうまれたと考えられますが、「マーガリン=部分水素添加油脂」ではありません。
さらに、前述の表をみてもわかる通り、昨今は技術革新によりほとんどの家庭用のマーガリンに部分水素添加油脂は含まれていません。
規制されたのは、この工業的に作られる「部分水素添加油脂」のみ。
マーガリンそのものが禁止されたのではない、ということを理解しておきたいところです。
参考
※9 農林水産省 トランス脂肪酸に関する各国・地域の取組>米国(閲覧:2020/03/05)
3-2 勘違いから生まれた「マーガリンが食べるプラスチック」説
次に、「マーガリンは食べるプラスチック」という噂が、単なる勘違いから生まれたデマだった可能性が高い・・というお話です。
噂の出所を確定させるのは難しいですが、「マーガリン=食べるプラスチック」となった理由として、「マーガリンは腐らないしカビないのはおかしい→これは食べるものではない!→プラスチックみたいなものだ!」
という理論が生まれたと推察できます。
そこから、いろいろな誤解が結びついて、マーガリンがプラスチックになってしまったようです。
3-2-1 そもそも油は腐らない
「マーガリンは腐らないのはオカシイ」と言われていますが、そもそも純粋な油は腐りません。
マーガリンが長持ちするのは、保存料が入っているケースもありますが、単純に腐らない植物油がベースだからです。
食品が腐るのは菌が繁殖するということなので、水やたんぱく質など菌の栄養となる条件が揃うことでおこります。
バターは乳製品なので不純物が多く、マーガリンよりも腐りやすいということ。
ちなみにマーガリンも不純物は含まれるので、長持ちはしますが腐るしカビます。
3-2-2 「プラスチック」は誤訳?
また、プラスチックと言われるようになった理由として、誤訳説も有力です。
マーガリンやバター、粘土など外から力を加えると形は変わるが、力を加えるのをやめても元に戻らない性質を「可塑性(かそせい)」と呼びます。
これを英語では「plasticity」と呼び、これが論文や本で出てくる際に誤訳され、広まったという説が多く見られます。
4 安全性は不透明。マーガリンを含む市販食品は要注意
家庭で使うマーガリンが安全な食品ならば、同じくマーガリンが使用されている市販品も安全かというと、実はそうとも言い切れません。
なぜなら、業務用マーガリンは低トランス脂肪酸ではない可能性があるからです。
そして、加工食品のうち、特にマーガリンやショートニングが多く含まれる確率が高いのが、クッキーやケーキなどの焼き菓子、菓子パン・総菜パンなどのパン類です。
これらをよく食べる人は要注意。
業務用マーガリンでもトランス脂肪酸の含有量は減ってきてはいるものの※10、日本ではトランス脂肪酸の表示義務がないため、私たちには加工食品に含まれるトランス脂肪酸の量を知る由もありません。
知らず知らずのうちにトランス脂肪酸を過剰摂取していることもあり得るのです。
また、マーガリンと同様、加工食品によく使われる「ショートニング」という油にもトランス脂肪酸が多く含まれますので、注意が必要です。
「ショートニング」について詳しく知りたい方は、別記事『ショートニングとは食感を良くする油!食べ過ぎ注意な1つの理由』をご覧ください。
参考
※10 丸山武紀『トランス脂肪酸と健康』2013 年 13 巻 6 号 p. 259-266
フライドポテトやコンビニスナックにもトランス脂肪酸!?
実は、お店で使われる揚げ油にもトランス脂肪酸が多く含まれることがあります。
業務用の油の中には、熱酸化を抑える加工をした油を使用していることがあり、それにトランス脂肪酸が多く含まれるためです。(家庭用のサラダ油などは当てはまりません)
パンやお菓子のみならず、ファストフードやコンビニスナック、スーパーのお惣菜を買う時は、揚げ物は控えめに。
5 マーガリンの正しい選び方とオススメ商品
家で適量食べる分には問題ないとはいえ、日本では規制がないためすべての製品が安全とは言えません。
マーガリンを購入するなら、ラベルを見て成分表示がしっかりされているものを選ぶことが重要です。
チェックすべきポイントは、以下の2点です。
① トランス脂肪酸が10gあたり0.2g以下
② 飽和脂肪酸が5g以下
トランス脂肪酸が少なくても、飽和脂肪酸量が多ければ同じく生活習慣病のリスクは上がってしまいます。
トランス脂肪酸だけで見るのではなく、両方が少ないものを選びましょう。
5-1 オススメ低トランス脂肪酸マーガリン3選
低トランス脂肪酸・低飽和脂肪酸のおすすめマーガリンを編集部がピックアップしました!
評価項目は以下です。
① トランス脂肪酸の含有量
② 飽和脂肪酸含有量
③ 手に入りやすさ
ヘルシーさはピカイチ!
雪印メグミルク ネオソフト べに花
トランス脂肪酸量
飽和脂肪酸量
手に入りやすさ
価格
飽和脂肪酸も0.5gと少なく、コレステロールもゼロ!
べに花油を使っているので、悪玉コレステロール値を下げると言われるオレイン酸もたっぷり。
あっさり目で少し物足りなさはあるかもしれませんが、脂質をトータルで減らしたい方におすすめ。
内容量:160 g
価格:243円
(2020年9月1日時点Amazonの価格)
トランス脂肪酸:0.03g
飽和脂肪酸:0.5g
味:あっさりめ
味わいを求める方に!
帝国ホテルマーガリン
トランス脂肪酸量
飽和脂肪酸量
手に入りやすさ
価格
他製品との違いは香料や着色料を使っていないこと。上質な発酵乳を使っているため、素材の風味を生かすように改良したそうです。
また、原料の植物油にはべに花油を使っており、味の追求と同時に健康への配慮もなされています。
内容量:185 g
価格:1,590円(2個の価格、1商品あたり795円)
(2020年9月1日時点Amazonの価格)
トランス脂肪酸:0.05g
飽和脂肪酸:2.9g
味:風味豊かで濃厚
ヘルシーなのに風味◎
小岩井マーガリン ヘルシー芳醇仕立て 180g
トランス脂肪酸量
飽和脂肪酸量
手に入りやすさ
価格
原料にヨーグルトとチーズを使用しており、ヘルシータイプなのにコクがある!と口コミでも好評です。
トランス脂肪酸も0.04g、飽和脂肪酸も2g以下と問題なし。
ヘルシータイプでもこってりしたマーガリンが食べたい!という方におすすめです。
内容量:180 g
価格:298円
(2020年9月1日時点Amazonの価格)
トランス脂肪酸:0.04g
飽和脂肪酸:1.73g
味:ヘルシータイプなのにコクあり!
6 より健康を求めるなら、オリーブオイルにチェンジ
もしパン派のあなたがより健康的な朝食にしたい!と考えるなら、おすすめは「オリーブオイル」。
エキストラバージンオリーブオイルには病気のリスクを下げる効果があることが実証されているからです。
世界で最も権威のある医学雑誌の1つである「ニューイングランドジャーナル」に掲載された、地中海食(魚、ナッツ、オリーブオイルを中心とした地中海沿岸地域の食生活)の健康効果を検証した研究によると、オリーブオイルは心筋梗塞などの病気のリスクを下げる効果があることが報告されています。※11
以下の3つのグループに分け、調査を行いました。
① 地中海食+エクストラバージンオリーブオイルを1L(1週間ごと)追加
② 地中海食+ミックスナッツ30g(1日あたり)追加
③ 低脂肪食
結果、①のオリーブオイルを追加で摂取するように指導されたグループが、最も脳卒中や心筋梗塞になるリスクの減少がに認められたそうです。
参考
※11 Estruch R, Ros E, Salas-Salvadó J, Covas MI, Corella D, Arós F, Gómez-Gracia E, Ruiz-Gutiérrez V, Fiol M, Lapetra J, Lamuela-Raventos RM, Serra-Majem L, Pintó X, Basora J, Muñoz MA, Sorlí JV, Martínez JA, Martínez-González MA; PREDIMED Study Investigators. Primary prevention of cardiovascular disease with a Mediterranean diet. N Engl J Med. 2013; 368: 1279‐1290.
替えるのであれば、パン+オリーブオイルが健康的にはベストな選択と言えますね!
まとめ
マーガリンに対する不安は解消されたでしょうか?
本来健康に気をつかうのであれば、何か一つの食材を足したり引いたりするのはあまり意味がありません。
数えきれないほどの栄養素のつながりで、食事は構成されているからです。
「何が悪いのか」「なぜ悪いのか」をしっかり理解した上で、食事全体を見直せるようになりたいですね!
最後に、記事の概要についてまとめたいと思います。
- 実はマーガリンのトランス脂肪酸は気にする必要がない
- マーガリンが危険食品とされる噂はデマ
- とはいえ、お菓子やジャンクフードの食べ過ぎには注意
- マーガリンを選ぶ時にチェックすべきは「トランス脂肪酸」「飽和脂肪酸」の含有量
- 最も健康的なパンのお供は「オリーブオイル」
この記事が、「マーガリンが危険ではなかった」という理解とともに、健康な食生活を考えるきっかけになればうれしいです。
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