「大豆油が体にいいと聞いたけれど、どんな油なの?」
「あまり見かけないけれど、他の油とどう違うのか、どう使えばいいのか知りたい」
大豆油についてそんな疑問を持っている人もいるのではないでしょうか?
大豆油とは、名前の通り大豆から作られる油です。
食用油として家庭で使われることは多くはありませんが、実はサラダ油やマーガリン、マヨネーズなどに加工されて食卓によく登場しています。
クセの強いものではないので、いろいろな料理に使えますし、生食も加熱もできる便利な油です。
そこでこの記事では、
◎大豆油の原料、製法、栄養成分
◎他の油との違い
についてまず説明し、それを踏まえて、
◎大豆油が健康によい3つの効果
- ビタミンKが骨粗しょう症を予防する
- ビタミンEの抗酸化作用で細胞を活性酸素から守る
- オレイン酸とリノール酸が悪玉コレステロールを減らす
を詳しく解説していきます。
さらに、
◎大豆油が健康に悪い?そう言われる3つの理由
- 心臓病リスクを高めるトランス脂肪酸
- 遺伝子組み換え原料
- 大豆アレルギー
といったリスクについても、誤解のないようにわかりやすく説明します。
この記事を最後まで読めば、大豆油についてメリットもデメリットも知り尽くすことができるでしょう。
その上で、あなたが大豆油を適切に使うことができるようになることを願っています。
目次
1 大豆油とは?
そもそも大豆油とはどんな油なのでしょうか?
名前の通り、大豆から作られた油なのですが、まず最初にその製法や栄養成分などの基礎知識から得ていきましょう。
1-1 原料と製法
大豆油の主原料は大豆であり、植物油に分類されます。
植物油の中でも、菜種やゴマのような油分の多い原料の場合は、圧搾して油を絞り出すことができますが、大豆は油分が少ないため圧搾ができません。
そこで、「溶剤抽出」という製法で作られます。
「溶剤抽出法」とは、原料に溶剤を加えてそこに油脂を溶かし出し、そこから溶剤を取り除くことで油脂だけを取り出すという方法です。
溶剤には一般的にノルマルヘキサンが使われています。
その後、不純物を取り除いて精製されたものが大豆油として食用に流通します。
1-2 栄養成分
大豆油の栄養成分の主なものと脂肪酸組成、その健康効果は以下の通りです。
<主な成分>
カロリー (kcal) | ビタミンE(トコフェロール)(mg) | ビタミンK (μg) | ||||
α | β | γ | δ | |||
大豆油 (100gあたり) | 921 | 10.4 | 2.0 | 80.9 | 20.8 | 210 |
※出典:文部科学省「日本食品標準成分表」
<主な脂肪酸組成>
パルミチン酸 | オレイン酸 | リノール酸 | リノレン酸 | |
大豆油 (100%として) | 10.6% | 23.8% | 53.0% | 7.4% |
※出典:公益財団法人日本油脂検査協会「食用植物油脂の脂肪酸組成」
◎ビタミンE:抗酸化作用に優れ、細胞内に過酸化脂質が作られるのを防ぐ
◎ビタミンK:カルシウムを骨に取り込むのを助け、骨粗しょう症などの予防に役立つ
◎リノール酸・α-リノレン酸:動脈硬化や血栓を防ぎ、悪玉コレステロールを減らす
◎オレイン酸:オメガ9系の不飽和脂肪酸で、善玉コレステロールを減らさずに悪玉コレステロールだけを減らす
特にビタミンE、ビタミンK、リノール酸、リノレン酸を多く含むので、身体の酸化、老化が気になる人には健康効果が期待できそうです。
1-3 大豆油はサラダ油、マーガリンなどにも加工される
実は大豆油は、世界中で菜種油に次いで多く利用されている植物油です。
が、「自宅で日常的に使う油を『大豆油』にしている」という家庭はそれほど多くないのではないでしょうか。
それもそのはず、大豆油は「100%大豆油」として利用されるよりも、他の油と調合されてサラダ油になったり、マーガリンやマヨネーズなどに加工された形で大量に消費されているのです。
植物油の中では比較的安価なので、さまざまな用途で使われる意外になじみ深い油だと言えるでしょう。
参考
※ e-ヘルスネット|厚生労働省「HDLコレステロール」 「LDLコレステロール」 「骨粗鬆症の予防のための食生活」 「不飽和脂肪酸」
※ 文部科学省「日本食品標準成分表」
※ 公益財団法人日本油脂検査協会「食用植物油脂の脂肪酸組成」
※ 竹本油脂株式会社|加藤保春「加油脂製造技術」
2 大豆油の特徴
では、大豆油ならではの特徴にはどんなものがあるのでしょうか?
他の油との違いや、適する料理などの視点から解説していきましょう。
2-1 他の油との違い
大豆油はポピュラーなものであり、特筆するような特徴はあまりありませんが、そんな中でも注目すべき点をいくつか挙げてみます。
1)α-リノレン酸が豊富で、悪玉コレステロールを減らす
主な植物油の中で、大豆油はなたね油と並んでα-リノレン酸を多く含んでいます。
以下の表で比較してみましょう。
<α-リノレン酸の含有量>
大豆油 | なたね油 (ローエルシック) | ひまわり油 (ハイリノール) | 綿実油 | とうもろこし油 | こめ油 | ごま油 | |
α-リノレン酸 (%) | 7.4 | 9.2 | 0.2 | 0.6 | 1.1 | 1.4 | 0.3 |
※出典:公益財団法人日本油脂検査協会「食用植物油脂の脂肪酸組成」
α-リノレン酸は不飽和脂肪酸の一種で、動脈硬化や血栓を防ぎ、血圧を下げ、悪玉コレステロール(LDL)を減少させるなど、さまざまな役割を持っている必須脂肪酸です。
が、人間の体内では作り出すことができないため、食物から摂取する必要があるものです。
2)ビタミンKを多く含み、骨粗しょう症を予防する
もうひとつの特徴的な成分は、ビタミンKです。
<ビタミンKの含有量>
大豆油 | なたね油 | 米ぬか油 | 綿実油 | とうもろこし油 | こめ油 | オリーブ油 | |
ビタミンK (µg/100g) | 210 | 120 | 36 | 29 | 5 | 5 | 42 |
※出典:文部科学省「日本食品標準成分表」
ビタミンKは、カルシウムを骨の中に取り込むのを助ける働きがあるため、骨粗しょう症など骨が弱るのを予防する効果が期待できます。
また、血液の凝固や組織の石灰化にも関係していて、ビタミンK欠乏症になると血液が固まりにくくなるなどの症状が出てしまいますので、不足しないよう注意が必要です。
3)酸化しやすい
大豆油は不飽和脂肪酸を多く含むため、酸化しやすいという欠点があります。
そのため海外では、遺伝子組み換えによって酸化しにくい大豆油を作る技術が開発されましたが、日本では輸入されていません。
そのため開封後は保存に気をつけ、冷暗所でなるべく空気に触れずにおきましょう。
その上で、なるべく早く使い切るとよいでしょう。
2-2 適する料理・調理法
大豆油には独特のコクと旨味、風味があります。
が、クセが強いものではないので、どんな料理にも幅広く美味しく使うことができて便利です。
◎ドレッシングやマリネなどに生で使う
→ 旨味や風味をそのまま楽しめます。
◎揚げ物や炒め物に使う
→ 大豆油を精製した「白絞油(しらしめゆ)」は、レストランなどプロの間で大量に使用されています。
唐揚げや天ぷらなどに使用すると、香ばしく美味しく仕上がるのでオススメです。
ただし加熱により酸化しやすいので、何度も使い回さずに新しいものを使ってください。
参考
※ e-ヘルスネット|厚生労働省「HDLコレステロール」 「LDLコレステロール」 「骨粗鬆症の予防のための食生活」 「不飽和脂肪酸」
※ 文部科学省「日本食品標準成分表」
※ 公益財団法人日本油脂検査協会「食用植物油脂の脂肪酸組成」
※ Oregon State University,Linus Pauling Institute|微量栄養素情報センター「ビタミンK」
※ 一般社団法人日本植物油協会|菅野道廣「植物油サロン 第3回「あぶら」よ、訴えなさい。」
3 大豆油が健康によい3つの効果
前述したように、大豆油には他の一般的な植物油よりも豊富に含まれる成分がいくつかあることから、健康効果が期待できます。
その中から代表的なものを3つほど挙げてみましょう。
3-1 ビタミンKが骨粗しょう症を予防する
大豆油の成分の中で、突出して目立つのがビタミンKの豊富さです。
前章でも触れましたが、ビタミンKはカルシウムを骨に取り込むのを助けることで、結果的に骨を丈夫にする効果があります。
実際に、ビタミンK(フィロキノン)の摂取量が1日109μgより少ない女性は、それ以上摂取している女性に比べて股関節骨折のリスクが30%も高かったという研究があります。
また、800人以上を7年間にわたって追跡調査した研究では、食事でのビタミンK 摂取が最も高い四分位(中央値で254μg/日)の人たちは、摂取が最も低い(中央値で56μg/日)人たちより股関節骨折のリスクが65%も低かったそうです。
このような効果があることから、骨粗しょう症の患者の治療の中で、骨の形成を促進する薬としてビタミンK製剤が使用されています。
また、日頃からビタミンKが不足しないよう心がけることで、骨粗しょう症の予防効果も期待できます。
3-2 ビタミンEの抗酸化作用で細胞を活性酸素から守る
大豆油にはビタミンEも多く含まれています。
ビタミンE、中でもα-トコフェロールは抗酸化作用に優れていて、細胞膜を構成する脂質が活性酸素によって酸化した際にそれを補い、酸化が進むのを阻止する働きを持っています。
この作用により細胞の老化を防ぎ、生活習慣病などの予防にも役立つのです。
3-3 オレイン酸とリノール酸が悪玉コレステロールを減らす
オレイン酸は、善玉コレステロールを減らさずに、悪玉コレステロールだけを減らすことがわかっています。
特にオリーブオイルに多く含まれ、脂肪酸組成のうち70〜80%程度を占めますが、大豆油にも23.8%含まれているものです。
リノール酸もまた、悪玉コレステロールを減らす作用があります。
動脈硬化や血栓を予防し、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを減らす効果が期待できます。
コレステロールが気になる人は、大豆油を使ってみるのもいいかもしれません。
参考
※ e-ヘルスネット|厚生労働省「HDLコレステロール」 「LDLコレステロール」 「骨粗鬆症の予防のための食生活」 「不飽和脂肪酸」
※ Oregon State University,Linus Pauling Institute|微量栄養素情報センター「ビタミンK」
※ Oregon State University,Linus Pauling Institute|微量栄養素情報センター「ビタミンE」
4 大豆油が健康に悪い?そう言われる3つの理由
ここまで大豆油の健康効果について説明してきましたが、一方で「大豆油は体に悪い」という説を唱える人もいます。
なぜそう言われるのでしょうか?
それは本当なのでしょうか?
問題視されている3つの点について、詳しく解説していきましょう。
4-1 心臓病リスクを高めるトランス脂肪酸
まず、大豆油が危険だという人の主張のひとつに「心臓病リスクを高めるトランス脂肪酸が含まれているから」というものがあります。
が、これについては心配しすぎる必要はなさそうです。
というのも、
- 日本人の平均的なトランス脂肪酸摂取量は、健康リスクが懸念される量よりかなり少ない
- トランス脂肪酸を含む油は大豆油だけではなく、他の油や食品にも含まれている
からです。
詳しく説明していきましょう。
トランス脂肪酸は「不飽和脂肪酸」の一種で、日常的に摂取しすぎると、心臓病のリスクが高まるという研究結果があります。
このトランス脂肪酸について、日本では現在は特に規制がありませんが、海外ではすでに摂取量や濃度などの数値を定めて制限する例があります。
例えば、
◾️世界保健機関(WHO):トランス脂肪酸の摂取量を総摂取エネルギーの1%未満に抑えることを目標値として設定
◾️アメリカ:トランス脂肪酸が多く含まれる「部分水素添加油脂」を食品に使用するためには、「米国食品医薬品局(FDA)」の承認が必要(2018年より)
◾️EU:食品に含まれるトランス脂肪酸の濃度に上限を設定
◾️中国:食品にトランス脂肪酸濃度の表示を義務付け
などです。
ただ、トランス脂肪酸は牛肉や牛乳などの乳製品にも天然の状態で微量に含まれているもので、それらを含めても日本人がトランス脂肪酸を摂取している量は、総エネルギー摂取量の0.3%程度と言われています。
これはWHOの基準を大きく下回るもので、日本で一般的な食生活を送っている限りは、トランス脂肪酸による健康リスクはほぼないと言えそうです。
また、トランス脂肪酸が生成する過程にも、一考の余地があります。
油を精製する過程では、脱臭などのために高温で加熱処理することがあり、このときにトランス脂肪酸ができることがあるのですが、ということは、トランス脂肪酸を含む油は大豆油だけではありません。
他の油でも、加熱処理するものには同じリスクがあるわけです。
これらを踏まえれば、大豆油のトランス脂肪酸については過剰に心配せず、通常の油と同じように使いすぎに注意すればいいでしょう。
参考
※ 農林水産省「すぐにわかるトランス脂肪酸」
※ 農林水産省「トランス脂肪酸に関する各国・地域の規制状況」
4-2 遺伝子組み換え原料
もうひとつ心配されているのは、「遺伝子組み換え大豆を使っているのではないか」という懸念です。
遺伝子組み換えは、作物の品種改良のために行われる技術です。
害虫やウイルスに対する抵抗力を強めたり、除草剤に対する耐性をつけて雑草だけが除草できるようにしたり、より多く収穫できる品種にするなど、さまざまな改良が施されています。
しかし一方では、
- アレルギーの原因になる可能性
- 在来植物などの環境を乱す危険性
が指摘されているという面もあり、「遺伝子組み換え原料を使った製品は避けたい」と考える人が多いのです。
もちろん基本的には、遺伝子組み換え作物やそれを使用した加工品には安全性審査が行われていますし、安全性が確認されたものについても遺伝子組み換えの表示が法的に義務付けられています。
実際に日本でも厚生労働省の安全性審査に合格して、食用として輸入された遺伝子組み換え大豆がありました。
その上で、消費者の不安感に配慮して、「遺伝子組み換えではありません」と明記した大豆油も市販されていますので、心配な人はそれを選ぶとよいでしょう。
参考
※ 厚生労働省「遺伝子組換え食品Q&A」
4-3 大豆アレルギー
3つ目の不安は、大豆アレルギーです。
大豆アレルギーは、以前は卵や牛乳と並んで「3大アレルギー」と呼ばれるほど警戒されていました。
そのため、「大豆油もアレルゲンとして避けたほうがいい」と考える人がいるわけです。
ただ、実際の大豆アレルギーはそれほど多くなく、消費者庁による調査では、アレルギーを持つ人のうち卵アレルギーが34.7%、牛乳アレルギーが22.0%、小麦が10.6%であるのに対して、大豆アレルギーはわずか1.6%でした。
また、植物油は一般的に精製の過程で、アレルゲンとなるたんぱく質はほとんど完全に取り除かれてしまうので、大豆油にもアレルゲンはほぼありません。
ですから「大豆」本体をアレルゲンとして避ける必要があっても、「大豆油」には従来心配されていたような危険性はない、と主張する研究者も出てきています。
ただ、それでも臨床的には「大豆油でアレルギーを発症した」という例がままあるそうですから、もっと研究が進んで安全性が確定するまでは、大豆アレルギーがある人は大豆油にも警戒したほうがよいでしょう。
参考
※ 九州大学・熊本県立大学名誉教授|菅野道廣「大豆油はアレルギー反応を引き起こすか」
※ 消費者庁「平成30年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書」
※ 厚生労働省「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」
5 こんな人には大豆油がオススメ!
ここまでの説明を踏まえて、どんな人には大豆油がお勧めできるでしょうか?
それは以下のような悩みや希望を持っている人です。
◎骨が弱いので日頃から骨粗しょう症の予防に心がけたい
◎揚げ物が好きだが、コレステロールが気になる
◎生活習慣病が心配なので、食生活に気をつけたい
◎リーズナブルな価格で美味しい油を使いたい
「自分もそう思っていた!」という人は、いま使っている油を大豆油に変えてみるといいかもしれませんね。
6 まとめ
いかがでしたか?
大豆油がどんな油か、その特徴や性質をよく理解してもらえたかと思います。
では最後に、記事の内容をまとめてみましょう。
◎大豆油とは、大豆から作られる油で、サラダ油やマーガリン、マヨネーズにも加工される
◎大豆油が健康によい3つの効果とは、
- ビタミンKが骨粗しょう症を予防する
- ビタミンEの抗酸化作用で細胞を活性酸素から守る
- オレイン酸とリノール酸が悪玉コレステロールを減らす
◎大豆油が健康に悪いと不安視される原因は、
- 心臓病リスクを高めるトランス脂肪酸
- 遺伝子組み換え原料
- 大豆アレルギー
これを踏まえて、大豆油と正しく付き合っていってください。
あなたが不安なく、毎日の食生活の中で大豆油を取り入れられるよう願っています!
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